医学部の地域枠入試とは?地元に残りたい人向け・学費0円のケースも

医学部入試情報

医学部特有の制度である「地域枠」。

都会には多くの病院があり、「どの病院の評判がいいかな」と口コミサイトを調べて病院を選んだり、症状の重さによってクリニックや市民病院などを使い分けるのが当たり前。
しかし、田舎では病院が近くになかったり、あっても自分の掛かりたい科ではないこともよくあります。そんな地方の医師不足を解消するために考えられたのが医学部入試の「地域枠」。
医師不足の地域で働くことを条件に、奨学金などを給付される制度です。

「奨学金がある」と聞くと興味が出るものの、「ただしその地域で決められた病院で働かなくてはならない」など様々な話を聞くと、「面倒だから止めておこうかな」と思ってしまう人も多いでしょう。

しかし、地域枠=学費を減らせる上に確実に地域医療に貢献できるようになる、ということでもあるため、地域枠は人によってはとても便利な制度でもあります。

今回の記事では、地域枠についてどんなものか、メリットとデメリットを紹介します。
今年地域枠を設ける大学も一覧で紹介するので、地域枠受験を検討している人もそうでない人も、ぜひ参考にしてみてくださいね!

地域枠は医師不足地域への医師確保が目的

 

 

 

 

医学部の地域枠は、平たく言ってしまえば
「その県内の指定の病院で働くのであれば、返済不要の奨学金を貸与する」
という制度。

地方や田舎では医師が少ないほか、総合的に患者を診られる医師や産科、小児科の医師は全国的に不足しています。

その不足を補うために、その県でも医療が手薄な場所や、医師不足の地域で卒業後働くことを条件に、奨学金を給付して学生を募集するのです。

地域枠の募集は、入試と同時に行われます。
地域枠募集のある大学の入試には「〇〇県地域枠」として何人かの枠が定められており、その枠に合格すれば同時に奨学金の貸与と「将来はその地域で医師として働く」ことが決定するのです。

基本的には、以下の内容が地域枠の条件になります。

・卒業後、指定された地域の病院で9年間働かなくてはならない
・毎月奨学金を支給する。ただし9年間の任期後、奨学金の返還義務はなくなる

地域によっては、これに加え
「地元出身者(その県に居住している、高校がその県だった、あるいは両親や祖父/祖母がその県に住んでいる、など)である」
「特定の診療科(救急・産科・小児科・総合診療科など)に進まなくてはならない」
といった条件が付く場合もあります。

地域枠に興味がある場合は、その県の地域枠のパンフレットを必ず参照しましょう。

ちなみに、県によっては地域枠入試以外にも地元出身者向けの医学部奨学金(こちらももちろん卒業後特定の病院などで働く必要があります)を設置していることもあります(例:千葉県)。
「絶対に奨学金が欲しい/地域に貢献する」という意志がある人は、そちらもチェックしてみるといいでしょう。

医学部地域枠は一般受験以外にも学校型推薦、総合型選抜で受験できる

 

 

 

「地域枠入試」とは、「合格したら奨学金がもらえる+卒業後、定められた地域の病院で働かなくてはならない」入試の総称。
つまり、必ずしも一般受験とは限らず、県によっては学校推薦型選抜や総合型選抜の1つとされていることも。

その場合、学校長の推薦書が必要だったり、現役生しか受験できなかったり、あるいは評定平均が高くないと受験できなかったりするケースもあります。
まずは、利用したい県の地域枠のタイプを確認しておきましょう。

一般入試の場合、地域枠受験と一般受験で難易度の差はありません。
多くの場合、一般受験と試験日も同日で、同じ時間に同じ問題を受けることになります。
ただし、面接の際に「本当に地域医療に貢献する気持ちはあるのか、地域医療に対する問題感を持っているのか」などはより強くチェックされます。

以前は、「地域枠のほうが試験は楽」といわれることもありましたが、現在では基本的にそんな事はありません。
まず地域医療に貢献するという強い意志がないと面接で落ちてしまいますし、募集枠が少なく辞退者もいないため一般入試より遥かに高い倍率になることも珍しくありません。

「一般入試で受かりそうにないから」「奨学金が欲しいから」といった軽い気持ちで受けても合格は難しいでしょう。

ちなみに、入学後のカリキュラムについては、地域枠と一般受験とで基本的に差はありません。
ただし、僻地医療についての講義が必修となったり、実習時に特定の地域病院に行くことを指定されたりするケースも。
また、県によってはキャリア形成プログラムに従い、1年時からワークショップや研修を大学の授業とは別に受ける必要があります。

地域枠は4パターン

ただし、実際には「地域枠」と言っても様々な場合があります。

・奨学金あり全国から募集
・奨学金あり+地元出身者のみ
・奨学金なし+全国から募集
・奨学金なし+地元出身者のみ(=地元民推薦枠)

大きく分けてこの4つのパターンがあり、大学によって1パターンの募集しか行っていないところや、「地域枠A」「地域枠B」とそれぞれを呼び数パターンでの地域枠募集を行っているところがあります。

受験枠としても推薦扱いになっているものと、一般入試枠扱いになっているもの、両方が存在します。
当然ですが推薦扱いの場合は公募推薦などとは併願できませんし、一般入試枠の場合は通常の一般入試と地域枠募集、どちらで受験するかの選択が必要になります。

推薦扱いの場合は、「現役・1浪まで」「評定平均4.2以上」などの条件が別途付く場合もあります。

また、地域枠を設定する県によっては、研修先や働く病院だけでなく、進路として選ぶ診療科が指定されていることも。
産婦人科や小児科、救急科など、特に人手不足が問題になっている診療科に進むよう要請されることが多いようです。

「地域枠」と一口に言っても県によって様々なので、自分が地域枠を利用したい県の要項、あるいは大学の入試要項を必ずチェックして入試計画を立てるようにしましょう。
大学入試時に募集される地域枠以外にも、地元民向けに県が行っている奨学金制度などもあるので、地域枠を考えている人はそちらも一緒に検討してみるといいですよ。

医学部地域枠の最大のメリットは、学費面

 

 

 

 

医学部地域枠のメリットとしては、以下のようなものがあります。

・奨学金が出る

・地域医療に確実に貢献できる

・より多くの症例を経験できる可能性が高い

・離島の診療所や僻地医療など、他の医師とは違った経験が積める

地域枠の最大の魅力でありメリットは、やはり「奨学金」。
県によってはない場合もありますが、多くの場合奨学金と地域枠はセットになっています。月額10万円〜30万円程度が支給されるので、6年分の合計だと約720万円〜2160万円になるでしょう。多い例では新潟県地域枠で杏林大学に合格できれば月50万も支給され、ほぼ奨学金だけで学費を賄えます。「経済的理由で私学の医学部は難しい」という人にも嬉しい制度です。

また、地域枠では医師不足の地域で働かなければならないので、田舎や離島などが選択肢として提示されます。
「自分の育った地域に貢献したい」「訪問診療のできる総合診療医になりたい」「離島や僻地医療に興味がある」という人には大きなチャンスとなるかもしれません。

医師不足の地域では都会の病院と違い、1人の医師でより多くのことをこなさなくてはなりません。
そのため、自然と幅広い疾患を診られるようになるでしょうし、執刀経験なども医師の多い病院に比べて多くなることが期待できます。

医学部地域枠は将来の選択肢が限られるのがデメリット

・辞退は基本不可

・自由にキャリアが選べない

・離脱時のペナルティが厳しい

・規定の期間はその県で働かなくてはならない

もちろん、地域枠にはデメリットもあります。

最大のデメリットは「自分の目標が変わっても、地域枠を途中で辞められない」ということ。
医学部に入る前に「産婦人科医になりたい!」と思っていても、いざ入学して勉強や研修をするうちに別の道のほうが自分に合っているように感じる、というのはよくあることです。

しかし、もし「自分のやりたいことは地域枠の条件と違った。方向転換をしたい」と思っても、一度合格してしまった地域枠の途中辞退は基本的に認められていません。

どうしても辞退したいという場合には、以下のペナルティが課されます。

・奨学金の一括返済(利子は約10%)をしなくてはならない
・原則として専門医の認定が行われない(2022年度の募集人員から)・原則専門医になれない
・離脱者を採用した病院は補助金の減額や募集定員の減員、臨床研修病院の指定を取り消される(=マッチングで採ってくれる病院がなくなる)

病院側にも、「県や大学に確認せず、地域枠を勝手に離脱した医師を採用した臨床研修病院は、補助金の減額(2019年から)や募集定員の減員、臨床研修病院の指定を取り消しを行う(2022年度の募集人員から)」というペナルティがあるため、自分勝手な理由で地域枠を離脱すると研修先を見つけることも困難でしょう。

また、地域枠では研修先や就職先は指定された病院のうちから選ばなくてはなりません。
ほぼ田舎ですし、医師不足に悩むくらいなので働き始めてからもハードな勤務になることが予想されます。

「より多くのことを1人でこなさなくてはならない」という特性上、自分の専門性を突き詰めたいという人にも不向きになるでしょう。

「こんなはずじゃなかったのに……」と感じても、9年間ほどは指定病院で働き続けなければなりません。

地域枠のデメリットは「卒業後のキャリアの選択肢が狭く」かつ、「離脱することができない」点にあります。
地域枠に合格したあとの辞退は基本的にどの段階でも不可で、仮に途中で別の道に進みたくなったとしてもそれを諦めるしかありません。

「自分には別の道のほうが合っていた」と医学部に入ってからの勉強や研修中に気づいたり、状況が変わってしまうことはよくあります。
しかし、地域枠で合格してしまうと「その医学部を卒業し、卒業後9年間その県内で働く」以外の選択肢がなくなってしまうのです。

医学部地域枠併設の大学66校

2022年に地域枠を設置する大学は以下の通り。(66大学908人)

なお、同じ大学内に「県内枠」と「全国枠」など、募集要項が違う地域枠がある場合も合計して表示しています。
詳しくは各大学の募集要項などを参照してください。

 

《国立大学》

大学 人数
弘前大学 青森県 27
東北大学 宮城県 7
岩手県 2
秋田大学 秋田県 29
山形大学 山形県 8
筑波大学 茨城県 36
群馬大学 群馬県 18
千葉大学 千葉県 15
東京医科歯科大学 茨城県 2
長野県 2
新潟大学 新潟県 33
富山大学 富山県 10
金沢大学 石川県 10
富山県 2
福井大学 福井県 10
山梨大学 山梨県 20
信州大学 長野県 15
岐阜大学 岐阜県 25
浜松医科大学 静岡県 15
名古屋大学 愛知県 5
三重大学 三重県 20
滋賀医科大学 滋賀県 5
神戸大学 兵庫県 10
鳥取大学 鳥取県 11
島根県 5
兵庫県 2
岡山大学 岡山県 4
兵庫県 2
鳥取県 1
広島県 2
広島大学 広島県 13
山口大学 山口県 15
徳島大学 徳島県 12
香川大学 香川県 14
愛媛大学 愛媛県 15
高知大学 高知県 15
佐賀大学 佐賀県 4
長崎県 1
長崎大学 長崎県 15
佐賀県 2
宮崎県 2
熊本大学 熊本県 5
大分大学 大分県 10
鹿児島大学 鹿児島県 18
琉球大学 沖縄県 12

 

《公立大学》

大学 人数
札幌医科大学 北海道 8
福島県立医科大学 福島県 45
横浜市立大学 神奈川県 5
名古屋市立大学 愛知県 7
京都府立医科大学 京都府 5
大阪公立大学 大阪府 5
奈良県立医科大学 奈良県 13
和歌山県立医科大学 和歌山県 10

 

《私立大学》

大学 人数
岩手医科大学 岩手県 28
自治医科大学 栃木県 3
全国 20
獨協医科大学 栃木県 10
埼玉医科大学 埼玉県 19
杏林大学 東京都 10
新潟県 2
順天堂大学 東京都 10
新潟県 2
千葉県 5
埼玉県 7
静岡県 5
茨城県 2
昭和大学 茨城県 4
新潟県 7
静岡県 8
帝京大学 福島県 2
千葉県 2
静岡県 2
東京医科大学 茨城県 5
山梨県 2
新潟県 2
東邦大学 千葉県 5
新潟県 5
日本大学 埼玉県 5
日本医科大学 千葉県 7
埼玉県 2
静岡県 4
北里大学 神奈川県 5
茨城県 4
山梨県 2
聖マリアンナ医科大学 神奈川県 5
東海大学 神奈川県 5
静岡県 3
愛知医科大学 愛知県 10
藤田医科大学 愛知県 10
大阪医科薬科大学 大阪府 5
静岡県 8
新潟県 2
近畿大学 大阪府 3
奈良県 2
和歌山県 2
静岡県 10
兵庫医科大学 兵庫県 2
川崎医科大学 静岡県 10
長崎県 6
久留米大学 福岡県 5

 

地域枠は入りやすいこともあるが、難易度は高い

 

 

 

 

「9年も田舎に拘束されるんだから、地域枠のほうが人気がなくて、偏差値が低くても合格できるかな?」と考えた人もいるかもしれません。
実際に、以前は「手堅く合格を勝ち取りたい」という人が地域枠を利用するようなイメージがありました。

ですが、今では「地域枠のほうが入りやすい『こともある』」というだけで、一般入試以上に倍率が高いことも少なくありません。

例えば、2021年に行われた獨協医科大学の入試では、一般入試の実質倍率が約13.4倍(受験者2269人中169人が合格)であるのに対し、栃木県地域枠は42.5倍(受験者255人中6人が合格)とはるかに高い倍率になっています。(参照:入学試験結果(令和3年度) | 獨協医科大学

地域枠は人数の少ない枠であり、合格した場合辞退はほぼ許されません。
一般入試の医学部受験と違って定員ぴったりの合格者数しか出さないので、「繰り上がり合格」も期待できません。
そのため、少し受験者数が増えただけでかなりの高倍率になってしまいます。

偏差値で比べてみても、地域枠と一般入試には差がないか、あっても2程度の医学部がほとんどです。(参照:私立大学 医学部偏差値一覧 | 医学部入試情報2022 | 河合塾 医進塾
国家試験合格率も一般入試の人と変わらないという結果が出ています。(参照:医療従事者の需給に関する検討会 第36回 医師需給分科会

奨学金を巡って一般入試以上の熾烈な争いが繰り広げられる場合もある地域枠。
「勉強苦手だから、地域枠で受けようかな」と考えてもうまく行かないことが多いので注意が必要です。

地域枠はどの都道府県にもあるが、地域枠入試を実施しない大学もある

 

 

 

 

地域枠は、全国すべての都道府県にあります

県内の大学のみに適用される場合が多いですが、その大学へ行く県民が多い場合は、近隣の県にある大学でも地域枠を設定していることも。
特に東京都にある大学は、埼玉県や千葉県など多くの県の地域枠を設定しています。

以下の表を参考にして、自分の住んでいる県やゆかりのある県がどの大学に地域枠を設定しているかを探してみてくださいね。(クリックで拡大します。)

(引用:医療従事者の需給に関する検討会 第34回 医師需給分科会

「地域枠は全国どの都道府県にもある」と聞くと、ちょっとホッとした気持ちになりますよね。
しかし、都道府県に地域枠が設定されていても、地域枠がない大学もあります。

全国の医学部は、国立42校、公立8校、私立31校(あと防衛医大)。
そのうち地域枠を利用していないのは国立5校、私立5校になります。

実際に2020年の入試では、以下の大学で地域枠入試が設定されていませんでした。

国立大学:北海道大学・東京大学・京都大学・大阪大学・九州大学
私立大学:国際医療福祉大学・慶応大学・女子医科大学・日本大学・産業医科大学
(自治医科大学は今回のカウントからは外します)

かなり多くの大学で地域枠は導入されていますが、人気の特に高い大学では地域枠が募集されない傾向にあるようです。

また、地域枠は新しく設定されたり、また募集を取りやめたり人数を増減したり、毎年の変更が多い部分でもあります。
例えば、東京慈恵会医科大学は2021年度をもって東京都の地域枠募集を終了し、その分の東京都地域枠が2022年から日本医科大学に新設されました。
岩手医科大学では秋田県出身者枠を2021年に新設しています。

「去年10人分の地域枠があったから、今年も同様に10人分の枠がある」とは限らないので、早め早めに各大学の情報をチェックする必要があります。

地域枠利用をするときはよく考えよう!

奨学金と引き換えに、9年ほど地域の医師不足の地域で働く」ことを入学時に確約する地域枠。

もらえる奨学金の額も大きく、きちんと指定の病院で規定の年月働けば返済免除というメリットも大きいですが、将来のキャリアを自由に決定できないというデメリットもあります。

地域医療に携わりたい人や、産婦人科、小児科などを志す人にはうってつけの制度なので、自分がなりたい医師像をよく考え、地域枠でそれが可能か想像してみるといいかもしれませんね。

 

女子で地域枠を使う時に結婚や出産との時期かぶりが気になる……という人は、以下の記事も読んでみてくださいね!

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