医学生は絶対通る道!平均5か月の解剖実習は体力的・精神的に辛いがかけがえのない経験になる
「解剖実習」医学部を目指す人なら誰しも聞いたことがあるでしょう。
今回は解剖実習を終えたばかりの医学部2年生の筆者が、解剖実習のリアルを紹介します。
経験した医学生はみんな、強く強く濃く印象に残る実習です。
解剖実習は医学生と歯学生のみができる実習です。
私の大学では、看護学生や体育学生など一部別学部の人が見学にきましたが、医学生と同様にご献体に触れることはできません。
それだけ貴重な経験なのです。
Contents
すべてが「本物」未知との遭遇の連続
私の大学では、2年生の9月後半から解剖実習がはじまります。
大学によって時期は異なりますが、2年生で実習がはじまることが多く、期間は3~7か月程度に及びます。
ここからは私の大学の例を紹介します。
1グループ5~6人で構成され、「ご献体」1体を担当します。
「ご献体」とは、生前に「自分の命がつきた際には、勉強のために自分の身体を使ってください」と登録してくださった方々です。
もちろん、ご家族のお気持ちもあります。簡単に決断できるものではないでしょう。
「自分だったら、自分が家族の立場だったら」ととても考えさせられました。
解剖実習をはじめる前には毎回学生全員で黙禱を行い、お花も持参することで敬意の気持ちをお伝えしていました。
以下は解剖実習を終えた京都大学学生の感想文です。深く心に残ったことがわかりますね。
学生5名の感想文が紹介されています。
みなさんの感想文を読んで、印象的かつ非常に共感した感想として以下がありました。
『身体の構造が複雑で一人ひとり違うのを目の当たりにして、人間一人ひとりのかけがえのなさを感じました』
『進化の過程で形成された複雑で精緻な構造を持つ人体という存在に畏敬の念を持つようになりました』
『構造物の一つひとつに役割があって我々の体が成り立っているのは奇跡のようなものだと感じました』
『実習中には、体調の変化やつらい気持ちに悩まされることもありました』
初めての実習はみんな恐る恐る
解剖実習の初回。みんな緊張した面持ちでした。
覆われていた布を取ると、ご献体と対面します。倒れる人は出ませんでしたが、みんな不安げな表情でした。
初めは「皮剝」といって、皮膚とその下にある脂肪組織を丁寧に取り去るという作業をしなければなりません。
最初はなかなかみんな手が動かず、私の班では私がメスで皮剝するのを周りの班員が見ていて、先生に「君たちもやるんだよ!」と怒られてしまう始末でしたが、次第に慣れてきて初回の授業の最後にはみんなメスを握れるようになっていました。
ご献体はホルマリンという薬液に浸っているので、匂いはかなり強く、匂いで気分が悪くなってしまう同級生はいました。
洋服や髪の毛にも匂いがつくので、実習中は着替え、帽子も被って、防護マスクもして完全防備で挑みます。
実習序盤~中盤① 骨や筋肉の観察
皮膚を剝離し、脂肪組織も取り去ると筋肉が出てきます。筋肉は骨に起始・停止しており、筋肉の走行や骨への付着部を確認します。
筋肉は真っ赤というよりはすこし赤黒い感じで、筋肉に埋もれて神経や血管が観察出来ました。
初めて実際の筋肉や骨を見て、「ああ、人体ってすごいな。こんなたくさんの組織に支えられているんだ」と感じた瞬間でした。
実習序盤~中盤② 血管や神経の観察
実習序盤で最も大変だったのが、血管や神経を傷つけずに剖出することです。本当に細くて、他の組織とも見分けるのが難しかったので、誤って傷つけてしまうこともありました。
解剖図通りに走行しているわけではないので、特定も難しかったです。
ちなみに実習室には解剖図と解剖実習の手引書が置いてあり、逐一確認しながら進めていきます。
実習序盤~中盤③ 腹膜内臓器の剖出・観察
腹膜というのは腹部臓器の一部または全体を覆っている膜のことです。
全面が腹膜に覆われている腹膜内臓器には、胃や空腸・回腸・結腸・S状結腸、脾臓、卵巣、卵管、虫垂があります。
また、一部が腹膜に覆われている半腹膜臓器には、肝臓、膀胱、子宮、直腸、盲腸、上行・下行結腸があります。
肋骨などをハサミを使って切断し、各臓器と血管を切り離してこれらを剖出します。
肝臓が思ったよりも硬くて大きくて驚きました。また、小腸・大腸は本当に長かったです!
実習後期① 心臓・脳の剖出と観察
心臓や脳の剖出は個人的にとても心に残りました。
頭と身体はノコギリを使って分断します。とても緊張しましたし、心苦しい気持ちもありました。
このような言葉遣いが正しいかは分かりませんが、本当に「美しい」と感じました。
心臓の心室・房室、各溝に走る血管、脳の部位を隅々まで観察しました。
心臓や脳は解剖図とほとんど同じ構造のように感じました。
実習後期② 後腹膜臓器の剖出・観察
後腹膜臓器とは、腹膜の後ろにある臓器です。腎臓やその上にある副腎、十二指腸、膵臓、尿管、下大静脈、大動脈がそうです。
みんなで協力して、ご献体を裏返しにして背部から解剖を進めます。
裏返しにする際は、とても力が必要なので、班員全員で息を合わせます。
皮剝や脂肪除去は初回よりもかなりスピードUPして進めることができました。
骨盤も切開します。
実習後期③ 脊髄神経や神経節の観察
実習の最後は、背面から背骨を剖出して、脊髄神経を観察しました。
私たちの班は神経節というぷくっと膨れた部分を見つけることができ、他の班の班員がたくさん観察しにきました。
男女差もあるので、解剖実習中は他の班にも度々訪問し、どこが違うのか観察していました。
暗記、暗記、暗記!解剖のテストはとても大変
みなさん、体の骨っていくつあるか知っていますか?
筋肉の種類がどれだけ多いか知っていますか?
骨は約200、筋肉は骨格筋だけでも400ほどあります。それを、ひたすら、暗記します。
しかも筋肉に至っては筋肉がくっついている部分が両端、つまり2カ所ずつあり、かつ支配する神経もあります。これも、全部、覚えます…。
途方がくれますよね。私もくれていました。
そして大変なのがテスト形式。
献体の一部を出して、
「この部位の名称を答えよ」
「これは右か、左か」
「この筋肉の支配神経は?」
といった問題に答えなくてはいけません。しかも私の大学だけかもしれませんが、問題も解答も英語です。
私の大学では、さらにお絵描き問題や先生が好きな身体のパーツについての問題などもあり、かなりマニアックなテストでした。
半分くらいは再試になるくらい難関なテストです。
試験前はほとんど寝れずに勉強し、当日はとてもとても緊張しました。何とか解くことができて今は本当にホッとしています。
解剖実習は医師になってからも大いに役立つ
いかがでしたでしょうか?解剖実習が少しでもイメージできましたでしょうか。
解剖実習が終わり、「自分は医師になるんだ」という自覚がより湧きました。
現代では医学の進歩が著しく、昨日は正解だったことが、明日には不正解になるということも珍しくありません。
しかし人体の構造は何百年経ってもほぼ変わりません。
さらに、外科医であっても内科医であっても人体の構造が頭に入っていることは患者の診察や治療に欠かせない重要な知識となります。
医学生になった際には、かけがえのない自分の身体を捧げて下さった方々、そしてそのご家族の方々への敬意の気持ちを忘れずに、積極的に学んでほしいと思います。
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