医学部地域枠制度と女性のキャリア形成は?
私立医学部は、「学費は2000万円超」が当たり前の世界。
少しでも安い学費で医学部に通いたい、と考えた時に候補として上がってくるのが「地域枠」ではないでしょうか。
しかし、地域枠で受験する場合、女子の場合は、出産や結婚のタイミングと重なりがちなのが難点。
現在、育休をとる男性も増えているのは事実ですが、2023年に行われた調査では子どもがいる女性の8割以上が育休の取得経験があるのに対し、男性医師では16.8%という結果がでています。このことから、女性は自分のライフプランを踏まえるとより慎重に地域枠受験を考える人も多いのではないでしょうか。
医師の育休取得、女性は8割超も男性医師の取得は約16% ~「育児休業」アンケート前編~ | 民間医局コネクト
今回の記事では、以下のことを説明します。
・医学部の地域枠って何?
・女子が地域枠を利用する際の注意点
正しく理解して活用すればメリットも多い地域枠ですが、利用する際には様々な条件があるためしっかり理解しておく必要があります。
Contents
地域枠とは都道府県が医師不足地域を解決するために行っている制度
地域枠とは各都道府県が医師不足地域を解決するために行っている制度のことです。奨学金や受け取ることができ、特定地域で、一定期間勤務すると返済が免除されることが多いです。
基本的に、受け取った奨学金の期間の1.5倍の年数を定められた地域で働くことが条件のところが多いです。しかし、各都道府県にその制度は異なります。具体的には就労できる地域の制限、猶予期間、進む診療科の制限、他の都道府県からの受け入れなどです。
例えばある県では県内のどこでも自由に就労できますが、他の県では県内のなかでも特に医師が不足している地域で就労する必要があります。特に島のある県では島に行くケースも多いようです。
ただし、大学や地域によってかなり内容はまちまち。
・奨学金なし
・卒業後県内で働く期間は6〜7年でOK
・地元出身者のみ
・現役・1浪のみ
・特定の診療科(救急科・小児科・産科・総合診療科など)に進まなくてはならない
などの条件の場合もあります。
もし地域枠の利用を検討している場合はしっかりと希望する地域枠の手引きを熟読するようにしましょう。
また、大学が入試時に募集する地域枠以外にも、県独自に行う「県内出身者向けの、卒業後県内の特定地域の病院で働くことを条件とした奨学金」などもあります。
自分の出身県の医療に携わりたいと考える人は、そちらもチェックするといいでしょう。
地域枠のメリットは学費を抑えることができる
上手に活用すれば地域医療に深く関わり県に貢献する医師になれる地域枠
《地域枠のメリット》
・奨学金が出る
・若干だが入試難易度が低いこともある
・より多くの症例を経験できる可能性が高い
地域枠の一番の魅力は「貸与型奨学金」。
大学や県によっては奨学金がない場合もありますが、6年間の学費が760万円程度(貸与が月20万、6年間の学費が2200万円で計算)で医学部が卒業できるかもしれない……となると、魅力的だと感じる人は多いのではないでしょうか。
地域枠だと一般入試より若干入試難易度が低くなる学校もありますが、募集人数が少ないため一般入試と難易度は変わらなということも多いです。
実際に、入学後の留年率や国試合格率は一般入試組と変わりませんので、「地域枠=勉強ができなくても合格できる」というわけではありません。
(参照:令和5年度以降の医師需給および地域枠設置の考え方について)
推薦入試と同じで、「この人なら一般入試を受けても受かっているだろうな」という人が合格することが多いと思っておきましょう。
また、地域枠では卒業後医師が少ない地域で働くことになるため、医師の多い地域にいるときよりも執刀経験などが多くなることも期待できます。
地域枠のデメリットは勤続年数や地域が限定されているところ
《地域枠のデメリット》
・辞退は基本不可
・自由にキャリアが選べない
・仕事がきつい可能性が高い
地域枠のデメリットは、キャリアの選択肢が狭まってしまうことです。
合格後の辞退は基本的に不可能ですし、もし途中で地域枠からの離脱する場合はそれまでの奨学金の一括返還を求められることがほとんど。
その場合、10%程度の利子もついているため、かなりの負担になるでしょう。
卒業後は指定された病院(や指定された科)で働かなくてはならないため、思ったようにキャリアを積めない可能性もあります。
医師が少ない地域で働く、ということは人手不足で仕事も忙しくなることも考えられるでしょう。
特に女子は男子以上にキャリアやライフイベントに悩むと思います。地域枠制度を利用する方の就労義務年限は9年の方が多いと思うのですが、医学部を卒業してからの最初の9年は様々なライフイベントも発生するはずです。
特に、女性にとって結婚出産は切っても切り離せない重要なライフイベントです。
この記事を読んでいる方には、結婚出産したら子育てを優先して非常勤でゆったりと働きたい方や、結婚してもバリバリ働きたい方など様々な人がいると思います。
子育てを優先してゆっくり働くなら関係ないのではと思われる人もいると思いますが、自分の母親の近くで子供を育てたい、教育の充実した都会で子育てしたいなど、就労する地域が限定されることにより出てくる弊害があります。
また、バリバリ働きたい人、私が想定しているのは専門医も博士課程もとりたい方や、臨床を頑張りたい人たちですが、この方たちにとって最初の9年間が限られた地域での就労となるとやはり選択肢はどうしても限られてきます。これは男性にとってもデメリットですね。さらに女性はこれに加えて人によっては結婚出産が入るため、男性以上に思ったようにキャリアを積むことはできないでしょう。しかし、結婚出産によるキャリアの問題は地域枠に限ったことではありませんので、女子だから地域枠は無理かもと思う必要はありません。
地域が限定されることによるデメリットは少なからずあります。そのリスクを背負う代わりに奨学金の給付や入学難易度の低下などの恩恵が受けられるのです。
まとめると、地域枠制度のデメリットとしては子育て環境と9年間の縛りがある中でどうキャリアをどう積んでいくか考える必要があるところでしょう。これは結婚したいと考えている男性にも同じことがいえます。
女子としてのデメリットは結婚出産によるキャリアの問題だと思います。
地域枠を受験する際はライフプランを考えよう
地域枠を利用して医師になると、9年ほどその県内で医師が少ない地域(大体は田舎ですね)に留まることになります。
ストレートで医学部を卒業しても、義務年限が終わった頃には33歳。
女性の場合、結婚や出産の時期と重なることもあるのではないでしょうか。
もちろん、出産や家族の介護などについては、猶予期間を設けてくれている県(例:広島県)もありますし、2022年度の地域枠からは「義務年限に猶予期間を設定する等の従事要件の変更をし、再契約する(引用:第35回医師需給分科会資料)」案が検討されています。
ですから、「途中で1回産休と育休をはさみ、また復帰して働く」という方法も取れるでしょう。
ただし、「出産した結果、復職が無理になってしまう」可能性なども大いに考えられます。
特に地元でない地域枠を利用する場合などは、慎重に自分のライフプランとキャリアを検討してからにすべきでしょう。
医学部の地域枠を利用したい人は慎重に考えよう!
奨学金をもらう代わりに、医師不足地域で働くことを義務付けられる地域枠。
離脱時には重いペナルティも課されるため、「とりあえず医学部に行きたい!」と安易な気持ちで地域枠を利用するのは考えもの。
しかし、「地域の医師不足解消に貢献したい」「やりがいのある診療科を選びたい」「地元密着型の診療がしたい」という人にはピッタリの制度と言えるでしょう。
高校生で大学併せて15年後の未来を想像させるのは酷なことだと思いますが、受けられるメリットも大きいので地域枠制度について是非一度調べてみてください
自分が将来どのようにキャリアを積みたいのか考えて、地域枠を上手に利用しましょう!
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