医師の勤務時間は24時間越えのことも 2024年からは働き方改革が開始
医師の働き方について皆さんはどんなイメージを持っていますか?医師はかなり忙しい働き方をしているイメージがあります。最近では働き方改革が行われることについて議論を呼んでいますよね。今回は医師の働き方について取り上げていきます。
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医師の勤務時間は過酷 長時間労働が通常になっている
厚生労働省が医師の労働状態について2017年に調査を行っています。
この調査によると、
最長の連続勤務時間が「32〜36時間」と答えた人が38.6%、「36時間以上」と答えた人を合わせると6割超にもなります。
医師の働き方として、日勤(一般的には8時〜17時くらい)の他に、当直(17時〜翌朝9時くらい)や当直を分割した準夜帯や深夜帯など働く時間帯がまちまちとなります。そのため、勤務と勤務の間であるインターバル時間の確保がQOLに直結します。この勤務間インターバル時間についても調査が行われており、勤務割上の最短時間が「〜9時間未満」と答えた人は23.1%だったのに対し、実際の最短時間が「〜9時間未満」と回答した人はなんと43.1%。つまり勤務割上でさえも2割以上の人が短いインターバルで働くことになっているものの、実際はその倍近い人が9時間未満という非常に短いインターバルで勤務していることになります。
「9時間未満って短いの?」と思った方は、想像してみてください。24時に職場を離れて朝の9時には勤務している自分の姿を。人の命を扱うためかなりのストレスを日々感じながら働く医師にとって、とても過酷な現状を表していると思います。
次では医師の勤務時間が長い理由の一つである当直について扱いたいと思います。
当直は通常勤務とは異なり必要時の対応
そもそも、当直について皆さんご存じですか?当直と似ていると認識されるものに夜勤があります。
夜勤形態での勤務は看護師に多いですね。これは、日勤・夜勤というようにシフトを作っています。そのため
日勤:8〜16時
夜勤:16時〜翌朝8時
または
日勤:8〜16時
準夜勤:16〜深夜0時
夜勤:0時〜8時
というように、勤務時間が決まっており、それぞれの時間で業務に当たっています。つまり、夜勤は名前の通り「夜に勤務する」ということです。
では当直とはどんなものなのでしょうか?
労働基準法第41条には
「ほとんど労働する必要がない勤務のみを認めるものであり、病室の定時巡回、少数の要注意患者の検脈、検温等の特殊な措置を要しない軽度の、又は短時間の業務を行うことを目的とするものに限ること。」
とあります。つまり、何かあれば対応するものの、その時間全てフルで仕事をするわけではなく、空いた時間は休憩するなり寝ていてもいい、ということです。
当直の時間は病院によっても変わりますが、おおむね17時から翌朝の8,9時までということが多いようです。
当直では患者さんの状態に合わせて検査や処置を行う
実際には何をするのでしょうか?上に載せた法律では検温などと書いてありますが、検温は看護師さんがしてくれることも多いですよね。当直は主に、「何かあった時の対応係」という役目です。
例えば
「病棟の患者さんが発熱しているので、診てもらえないでしょうか?」
「患者さんの血圧が下がりました。どうすればいいでしょうか?」
こういったヘルプが夜勤をしている看護師さんから出されたら、当直をしている医師の出番です。
呼ばれた病棟に行き、まず患者さんの状態を確認します。もしも知らない患者さんであれば、カルテを見てどういった疾患を持っているのかや飲んでいる薬などを調べて把握します。そして、薬を出すのか・検査をするのか・朝まで様子を見るのか、などその場に応じた対応や看護師への指示を出します。この一連の流れが当直している医師に求められることです。
また、これは各科の病棟の当直にあたる場合のケースです。研修医は救急外来の当直というものを担当することが非常に多いです。救急外来は、緊急の状態だと自分で判断した人、または救急車で運ばれてきた人への対応をします。症状・身体診察・検査・検査から考えられる疾患を考える・治療…などなど、臨機応変に対応していきます。
病棟の当直と違って、カルテにその日までの記録がない場合がほとんどです。そのため、今起きている症状の原因がわからない、アレルギーや飲んでいる薬もわからない、ということもザラです。
自分が研修医になって救急外来をやるようになるのか…と想像すると、ちょっと不安になりますよね。ですが、病院には研修医よりもベテランの医師がおり、判断に迷った時や困った時には相談できる体制が整っています。
当直は日中に比べて医師の人数も限られているため一人当たりの仕事量が必然と増えますが、その分医師として最低限必要なスキルが確実に身につく大切な勤務です。
当直あるある5選
①呼ばれて行ったら患者さんがベッドの上で仁王立ち
これはせん妄と呼ばれ、術後などの特別な環境下でよく起きる状態です。高齢者に多く、自分が置かれた状況がわからず、暴れたりしてしまいます。
②夜中の2~3時に呼ばれるのが一番疲れる
これもいろんな先生から伺いました。当直開始後すぐは普段から起きている時間ですので、呼ばれてもなんともありません。しかし、ちょうど眠りが深くなってきた深夜の時間帯に起こされると、翌日に起きた時の疲労度が凄まじいとのことです。
③ずっと眠れる当直のことを寝当直という
一番最初に書いた労働基準法に基づいて考えると、「え?寝れない当直あるの?」と思われるかもしれませんが、実は全然寝れない当直も存在します。患者がひっきりなしに運ばれてくる病院では全く寝れずに朝を迎えるということもあります。
しかし逆に一回も起こされずにずっと寝続けられる当直は寝当直といい、
「〇〇科の当直は寝当直だからいいよね〜」といった会話に使われます。
④当直後もそのまま勤務のことがある
当直をしたらそのまま帰れるかというと、そうとも限りません。患者さんの血圧などが落ち着かず、処置をしなければいけない場合はそのまま残って対応するということもよくあります。そもそも、当直明けもそのまま仕事するのがデフォルト、という病院もあります。
⑤大変な当直明けは達成感で満ち溢れる
もちろん大変なことが多いですが、当直明けに他のドクターに患者さんをお願いして勤務が終わった後は、責任から解放されてほっと一息つけます。
医局に勤める医師の勤務には転勤もある
今まで長時間勤務や当直という医師の勤務形態について取り上げてきましたが、医師に転勤があるのは知っていますか?教員や銀行員には転勤があるのは聞いたことがありますよね。医師の転勤は主に医局に属している医師に起こることです。医局はどんなものなのでしょうか?
医局では関連病院に異動することがある
「医局」と言っても明確な定義があるわけではありません。大学病院でよく使われる単語で、診療科ごとのグループと考えてもらっていいと思います。その診療科に自分が入ることで、診療の技術を身につけ、勉強会や大学院進学、留学なども支援してもらえます。
例えば「大学病院で循環器内科の医師になろう!」と決めたら、初期研修2年終了後、どこかの大学病院の循環器内科の医局に専攻医として所属します。すると、その医局の先輩に指導してもらいながら循環器内科医と認めてもらうための試験を受験するために勉強したり、日々の患者さんの診察業務などに励むことになります。そして、循環器内科医になった後は医局の先輩方のコネクションを使って海外に留学をしたり学会発表で経験を積んでいったりと、さまざまな経験ができます。
ではなぜ医局に所属すると転勤することになるのか?
医局は、さまざまな病院と提携を組んでいます。そのため、関連病院に行くことがしばしばあるのです。医局はたくさんの人がいて、大学病院の医局入りたての医師は、経験を積めるほどに症例数が確保できないことがあります。そのため、関連病院に行っていろんな手術を経験したり、たくさんの症例を自分で診察・治療することで経験を積めます。
医局人事異動あるある4選
ここから、医局人事にまつわるあれこれをお話ししたいと思います。
①異動先の関連病院が、同じ都道府県にあるとは限らない
たとえば、大学病院がたとえ東京にあったとしても異動先が東京都内にあるとは限りません。東京都で勤務していても異動先は新潟県ということもあります。
この場合、週1で勤務するわけではないのは自明だと思います。半年〜1年、長ければ2年くらい県外の関連病院で経験を積むことがあります。
②自分の患者さんとさよならしなくてはならない
外科の場合は手術によって良くなれば、その後通院がなくなることもあります。しかし内科であれば定期的に通院してもらって治療をして行くため、患者さんとの関係がより深くなって行くことがあります。
自分が初期研修の頃から関わっていた患者さんと、異動によって一旦お別れしなくてはならない、というのはとても辛いですね。患者さんにとっても、何でも相談できる先生だったのに診察してもらえないのは不安に思うこともあるかもしれません。
③関連病院の方が居心地がいい
これは人にもよると思いますが、特に地方が好きな人は田舎に異動した時に結構田舎での生活が楽しくなることもあります。
事実、地方であるほど医師の数が少なく、患者さんからも感謝される機会が多いと思います。みなさんも異動先が気に入ってしまうかもしれませんね!
④異動先での経験が実績になる
よくある話なのが、医局に入ってから2~3年目あたりで異動すると、その間にかなりの数の症例数を積めるようです。
例えば外科の場合、〇〇外科医と名乗れるようになるまでに数多くの手術を経験しなくてはなりません。しかし先ほども述べたように腕を磨くまでにそれだけ多くの症例数を大学病院で確保するのはとても難しいのが現状です。
だからこそ、「異動先の病院でこのオペとあのオペは完璧にできるようになって来い!」と教授からの命が下るそうです。
毎日、来る日も来る日もオペを行っていけば絶対に上手くなります。たくさんの患者さんの身体を借りて、メキメキと上達していくことで、異動先から帰ってきた後も他の手術の手技を身につけやすくなります。
長時間勤務や当直等について過重だと思う医師が3割以上
上記で扱ってきたように医師には過酷な長時間勤務や当直、勤務先によっては転勤もあります。これについて現役の医師たちはどう思っているのでしょうか。
リクルートが医師を対象に行った労働に関するアンケートがあります。
勤務先の1日の労働時間が9時間以上と答えた人が44.3%でしたが、アンケートによる適正だと思う勤務時間平均は7.9時間/日となっています。また1ヶ月の当直件数ですが、適正だと思う回数が平均で1.9回/月だったのに対し、2回以上であった人の割合は46.8%と半分近くにも及びます。このことから、医師自身が理想とする勤務形態と実際の勤務形態にはギャップが生じていることがよくわかりますね。
このほか「今の働き方は過重だと思いますか?」という問いに対して「過重で今後心身に影響が出ないか心配」「過重で心身への影響が既に出ている」と答えた人を合わせると33.6%、実に3人に1人以上が心身への影響を不安視していることがわかります。また「過重だが心身に影響が出るほどではない」と答えた人を合わせると、6割の人が勤務を過重だと捉えていることが判明しました。
今の働き方を過重だと捉えている人がこんなにいるということに驚きを感じます。仕事に関して、自分自身を大切にした働き方ができていない医師が多いということがこのアンケートからわかるのではないでしょうか。
こちらがアンケートの記事になります。気になる方は読んでみてください。
医師の働き方改革 2024年からは制限が設けられる
では、どうすれば医師がいきいきとやりがいを感じながら働くことができるのでしょうか?これから医師の働き方が大きく変わるかもしれません。
みなさんは医師の2024年問題、という言葉を聞いたことがありますか?
コロナ禍での医療者、特に医師の労働の厳しさを受け、2021年5月に医師の働き方改革の実現に向けた改正医療法が成立しました。この改正医療法は、医師の健康確保のために、勤務間インターバルや面接指導、連続勤務時間の制限などを義務づけています。
では具体的にどのような働き方になるのか見ていきましょう。
①時間外労働の上限は年間で960時間以下・月100時間未満
もともと、労働基準法第32条で定められた労働時間は『1日8時間・週40時間まで』となっています。しかし医療者である以上、目の前で突然患者が苦しみ始めたのに、「よーし、17時になったからかーえろっ♪」なんてことできるわけがありません。そこで、医師には今回このような時間外労働を定めました。しかし、救急医療など人手がかなり必要になる医療分野、または初期研修医・後期研修医などまだまだ駆け出しで学ばなければならないことが多くある人たちには年1,860時間以下/月100時間未満と規定が緩くなっています。
どうでしょうか?多すぎるよ!って思いますか?たしかに年960時間ということは月に80時間、1ヶ月の勤務日を25日とすると、毎日3〜4時間の時間外労働をしているという計算になりますね。年1,860時間なんていったら約2倍の時間になります。
それだけ医師が必要とされているということが実感できるかと思います。
②時間外割増賃金率の引き上げ
2023年からは、医療界も含めて中小企業において、月60時間を超える時間外労働をした場合に50%以上の割増賃金率で計算して給料を支払わなくてはなりません。時間外割増賃金率を引き上げることで、雇う側はなるべく1人当たりの労働時間を短くしようとします。これにより時間外労働を軽減できるというのが狙いです。
すでに一般企業の中には働き方改革を押し進めて実現した企業も多くあるかと思います。こういった取り組みが医療界にも浸透していくのは時間の問題のような気がします。
2024年からの医師の働き方改革の厚生労働省のページです。参考にしてみて下さい。
医師の勤務の現実を知って自分に最適なキャリアプランを考えよう
いかがでしたか?今日お話しした内容は受験生の人でも全て知っている人は少ないのではないのでしょうか。
研修期間を終えて一人前の医師として働きだすのは20代後半〜30代のため、結婚や出産と重なることも多々あります。しかし医師は上記でも取り扱ったように多忙であり、自分の時間をとるのは難しいです。だからこそ、みなさんが将来医師になったときにどんな状況が待っているのか、考える必要があるでしょう。働き方改革で勤務時間に多少の改善はあるかもしれません。しかし、やはり医師の仕事は激務であることに変わりないでしょう。その時に勤務形態について前から知っておけば自分に合った条件の病院やキャリアプランが立てやすくなります。
みなさんが自分がなりたい医師像に近づけるように願っています。
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