医学部受験の【地域枠】とは?入りやすさや奨学金について
都会には多くの病院があり、「どの病院の評判がいいかな」と口コミサイトを調べて病院を選んだり、症状の重さによってクリニックや市民病院などを使い分けるのが当たり前。
しかし、田舎では病院が近くになかったり、あっても自分の掛かりたい科ではないこともよくあります。
そんな地方の医師不足を解消するために考えられたのが医学部入試の「地域枠」。
医師不足の地域で働くことを条件に、奨学金などを給付される制度です。
今回の記事では、医学部受験の時に考えたい「地域枠」について説明します。
・地域枠ってどんな制度?
・メリットとデメリットは?
・地域枠を実施している都道府県・大学は?
「地域医療に興味がある」「奨学金を使って医者になりたい」という人は、メリットとデメリットを考えてから地域枠に申し込むようにしましょう。
Contents
医学部入試の地域枠とは?
医学部の地域枠とは、簡単に言ってしまえば「奨学金をもらうかわりに、奨学金を給付してくれた県の医者不足の地域で9年ほど働く」ことを条件とした入試枠のこと。
ただし、実際には「地域枠」と言っても様々な場合があります。
・奨学金あり+全国から募集
・奨学金あり+地元出身者のみ
・奨学金なし+全国から募集
・奨学金なし+地元出身者のみ(=地元民推薦枠)
大きく分けてこの4つのパターンがあり、大学によって1パターンの募集しか行っていないところや、「地域枠A」「地域枠B」とそれぞれを呼び数パターンでの地域枠募集を行っているところがあります。
受験枠としても推薦扱いになっているものと、一般入試枠扱いになっているもの、両方が存在します。
当然ですが推薦扱いの場合は公募推薦などとは併願できませんし、一般入試枠の場合は通常の一般入試と地域枠募集、どちらで受験するかの選択が必要になります。
推薦扱いの場合は、「現役・1浪まで」「評定平均4.2以上」などの条件が別途付く場合もあります。
また、地域枠を設定する県によっては、研修先や働く病院だけでなく、進路として選ぶ診療科が指定されていることも。
産婦人科や小児科、救急科など、特に人手不足が問題になっている診療科に進むよう要請されることが多いようです。
「地域枠」と一口に言っても県によって様々なので、自分が地域枠を利用したい県の要項、あるいは大学の入試要項を必ずチェックして入試計画を立てるようにしましょう。
大学入試時に募集される地域枠以外にも、地元民向けに県が行っている奨学金制度などもあるので、地域枠を考えている人はそちらも一緒に検討してみるといいですよ。
地域枠にはどんなメリット・デメリットがある?
もらえる奨学金の額は大きいものの、その分果たさなければならない責務が大きい地域枠。
ただ「奨学金がもらえるから」と軽い気持ちで選んでしまうと、「こんなはずじゃなかったのに」と後悔することにもなりかねません。
地域枠を利用する上で、どんなメリットとデメリットがあるのかを紹介します。
メリット
・学費が抑えられる
・地域医療に貢献できる
・離島の診療所や僻地医療など、他の医師とは違った経験が積める
地域枠の最大の魅力でありメリットは、やはり「奨学金」。
県によってはない場合もありますが、多くの場合奨学金と地域枠はセットになっています。
月額10万円〜30万円程度が支給されるので、6年分の合計だと約720万円〜2160万円になるでしょう。
また、地域枠では医師不足の地域で働かなければならないので、田舎や離島などが選択肢として提示されます。
「自分の育った地域に貢献したい」「訪問診療のできる総合診療医になりたい」という人には大きなチャンスとなるかもしれません。
デメリット
・途中で辞退ができない
・研修先や就職先が制限される
・規定の期間はその県で働かなくてはならない
もちろん、地域枠にはデメリットもあります。
最大のデメリットは「自分の目標が変わっても、地域枠を途中で辞められない」ということ。
医学部に入る前に「産婦人科医になりたい!」と思っていても、いざ入学して勉強や研修をするうちに別の道のほうが自分に合っているように感じる、というのはよくあることです。
しかし、もし「自分のやりたいことは地域枠の条件と違った。方向転換をしたい」と思っても、一度合格してしまった地域枠の途中辞退は基本的に認められていません。
どうしても辞退したいという場合には、以下のペナルティが課されます。
・奨学金の一括返済(利子は約10%)をしなくてはならない
・原則として専門医の認定が行われない(2022年度の募集人員から)
病院側にも、「県や大学に確認せず、地域枠を勝手に離脱した医師を採用した臨床研修病院は、補助金の減額(2019年から)や募集定員の減員、臨床研修病院の指定を取り消しを行う(2022年度の募集人員から)」というペナルティがあるため、自分勝手な理由で地域枠を離脱すると研修先を見つけることも困難でしょう。
また、地域枠では研修先や就職先は指定された病院のうちから選ばなくてはなりません。
ほぼ田舎ですし、医師不足に悩むくらいなので働き始めてからもハードな勤務になることが予想されます。
「こんなはずじゃなかったのに……」と感じても、9年間ほどは指定病院で働き続けなければなりません。
地域枠は入りやすい?
「9年も田舎に拘束されるんだから、地域枠のほうが人気がなくて、偏差値が低くても合格できるかな?」と考えた人もいるかもしれません。
実際に、以前は「手堅く合格を勝ち取りたい」という人が地域枠を利用するようなイメージがありました。
ですが、今では「地域枠のほうが入りやすい『こともある』」というだけで、一般入試以上に倍率が高いことも少なくありません。
例えば、2021年に行われた獨協医科大学の入試では、一般入試の実質倍率が約13.4倍(受験者2269人中169人が合格)であるのに対し、栃木県地域枠は42.5倍(受験者255人中6人が合格)とはるかに高い倍率になっています。(参照:入学試験結果(令和3年度) | 獨協医科大学)
地域枠は人数の少ない枠であり、合格した場合辞退はほぼ許されません。
一般入試の医学部受験と違って定員ぴったりの合格者数しか出さないので、「繰り上がり合格」も期待できません。
そのため、少し受験者数が増えただけでかなりの高倍率になってしまいます。
偏差値で比べてみても、地域枠と一般入試には差がないか、あっても2程度の医学部がほとんどです。(参照:私立大学 医学部偏差値一覧 | 医学部入試情報2022 | 河合塾 医進塾)
国家試験合格率も一般入試の人と変わらないという結果が出ています。(参照:医療従事者の需給に関する検討会 第36回 医師需給分科会)
奨学金を巡って一般入試以上の熾烈な争いが繰り広げられる場合もある地域枠。
「勉強苦手だから、地域枠で受けようかな」と考えてもうまく行かないことが多いので注意が必要です。
地域枠はどの都道府県にもある?
地域枠は、全国すべての都道府県にあります。
県内の大学のみに適用される場合が多いですが、その大学へ行く県民が多い場合は、近隣の県にある大学でも地域枠を設定していることも。
特に東京都にある大学は、埼玉県や千葉県など多くの県の地域枠を設定しています。
以下の表を参考にして、自分の住んでいる県やゆかりのある県がどの大学に地域枠を設定しているかを探してみてくださいね。(クリックで拡大します。)
(引用:医療従事者の需給に関する検討会 第34回 医師需給分科会 )
地域枠がない大学もある
「地域枠は全国どの都道府県にもある」と聞くと、ちょっとホッとした気持ちになりますよね。
しかし、都道府県に地域枠が設定されていても、地域枠がない大学もあります。
全国の医学部は、国立42校、公立8校、私立31校(あと防衛医大)。
そのうち地域枠を利用していないのは国立5校、私立5校になります。
実際に2020年の入試では、以下の大学で地域枠入試が設定されていませんでした。
国立大学:北海道大学・東京大学・京都大学・大阪大学・九州大学
私立大学:国際医療福祉大学・慶応大学・女子医科大学・日本大学・産業医科大学
(自治医科大学は今回のカウントからは外します)
かなり多くの大学で地域枠は導入されていますが、人気の特に高い大学では地域枠が募集されない傾向にあるようです。
また、地域枠は新しく設定されたり、また募集を取りやめたり人数を増減したり、毎年の変更が多い部分でもあります。
例えば、東京慈恵会医科大学は2021年度をもって東京都の地域枠募集を終了し、その分の東京都地域枠が2022年から日本医科大学に新設されました。
岩手医科大学では秋田県出身者枠を2021年に新設しています。
「去年10人分の地域枠があったから、今年も同様に10人分の枠がある」とは限らないので、早め早めに各大学の情報をチェックする必要があります。
地域枠利用をするときはよく考えよう!
「奨学金と引き換えに、9年ほど地域の医師不足の地域で働く」ことを入学時に確約する地域枠。
もらえる奨学金の額も大きく、きちんと指定の病院で規定の年月働けば返済免除というメリットも大きいですが、将来のキャリアを自由に決定できないというデメリットもあります。
地域医療に携わりたい人や、産婦人科、小児科などを志す人にはうってつけの制度なので、自分がなりたい医師像をよく考え、地域枠でそれが可能か想像してみるといいかもしれませんね。
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